1. ナノジーン育種

ナノジーン育種とは

これまで品種改良では、自然に、あるいは放射線や化学薬剤を用いるなど人為的な方法で起きた突然変異が利用されてきましたが、 ランダムに遺伝子の変異が発生するのを待つため、およそ30年の時間を要します。目まぐるしく変動する地球環境の中で、人々のニーズに応え、タンパク質不足の解消を目指すには、圧倒的に時間が足りません。

そこで私たちは、ゲノム編集技術を水産物に適用し、超高速の品種改良を行うことにしました。そして、ゲノム編集食品ベンチャーや関係団体と相談の上、「欠失型ゲノム編集」(SDN-1、すなわち品種改良に分類されるもの)を「ナノジーン育種」と名付けることにしました。

10億分の1("ナノ")の、ごくわずかな遺伝子("ジーン”)にのみ働きかけることによって行う品種改良(”育種”)という意味が込められています。

研究者

ナノジーン育種の原理

ナノジーン育種のコアになる「ゲノム編集技術」とは、酵素を使って、起こしたい進化を担うDNAにピンポイントで刺激を与えることで、自然界でも起こり得る変化を起こす技術です。

従来の品種改良は、ランダムかつDNAを数千個単位で起きる突然変異を利用してきたのに対し、ゲノム編集では、DNAを数個単位でピンポイントに変異させることが可能になります。 この手法を利用すれば、品種改良にかかる時間を、従来の30年から、わずか2-3年に短縮することができます。

選抜育種vsナノジーン育種

 

※遺伝子組換えとの違い

遺伝子組換えは、開発したい生物に、別の生物の遺伝子を導入することによって、別の生物の持つ特性を付与する技術であるため、自然界には存在しない品種が生み出されます。これに対し、ゲノム編集では、遺伝子導入を行わず、開発したい生物の遺伝子に対して自然界でも起こり得る変異を再現する手法です。そのため、自然界にも存在し得る品種を生み出すことができます。

遺伝子組換えvsナノジーン育種

ナノジーン育種の安全性

食品としての安全性

従来型の品種改良は、ランダムに起きる変化に依存するため、どの遺伝子にどのような影響が出るかは、実は正確に把握できていないのが実態です。

それに比べて、ナノジーン育種では、どのような働きを持つ遺伝子がどう変化したか、変化の過程が明確になるため安全です。実際、狙った遺伝子以外の遺伝子に変化(オフターゲット変異) がないことを確認しております。自然界でも起こり得る品種改良なので、安全性の面でも問題ありません。 

厚生労働省への届出
厚生労働省の「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領」 に基づき、遺伝子組換えに該当しないこと、また食品としての安全性について問題がないことを確認しており、同省に届出を行っています。

 

生物多様性への影響

ナノジーン育種で開発した魚が外海に逃げ出さないよう、飼育水槽は陸上養殖施設に設置し、様々な拡散防止措置を執っています。

例えば、水槽内に筒状ネット、排水溝に二重のネットを設置することで、合計三重のネットを完備。魚の発育ステージに応じて目合いを変更すると共に、毎日こまめに掃除・点検を実施しています。

逃亡防止措置

※なお、繁殖用の親魚の水槽では、必要に応じて、別に卵回収用の小型水槽(卵回収装置)を設置し、水槽外への卵の流出を防止しています。また、精子は、海水中ですぐに活性が失われ、外海に到達するまで受精能力を保持できないことを確認しております。

農林水産省への届出
農林水産省に対しても、生物多様性影響などの観点から問題がないことを確認しており、同省に届出を行っています。

2. スマート陸上養殖

ナノジーン育種魚の飼育効率をさらに高める

これまでの水産養殖は、業界における技術革新の遅れも相まって、養殖担当者の”経験と勘”に基づいた運営が行われてきました。それ故に、養殖業務は属人的な性格が強く、新たな事業者が参入しにくい構造となっています。

こうした状況を受け、私たちは、AI/IoTといったセンシング・解析技術を積極的に取り入れ、データに基づいて飼育環境や養殖業務を制御するスマート養殖を推進しています。

コスト改善

スマート養殖の導入は世界的にも進みつつありますが、生産効率の高い品種を開発できるナノジーン育種と組み合わせることで、導入コストを削減し、さらに効果を高める相乗効果を生み出すことが可能です。 

スマート養殖